想い出のバーテンダー

10年以上昔の話。
冬の夜。僕は一人、生まれて初めてストリートに挑戦した。
駅のデッキにハードケースを広げ、足早に帰路を急ぐ人達に向かって唄った。

 かじかむ手で力一杯弦をかき鳴らし、下手くそなギターと歌を夜風に飛ばした。
 時代はまだバブルのなごりがくすぶっていた頃で、酔っ払いが気前良く小銭を投げ入れてくれた。
2〜3時間も歌っただろうか、とても人前にお披露目できるレベルに無い僕の歌だったが、ハードケースの中には2000円程のお金が入っていた。
 それがどうであれ、そのときの僕には初めて自分の歌でお金を稼いだ。ということがやけにうれしく、誇らしい気持ちになったのを覚えている。  
その帰り道、ハードケースを抱えて歩いていると、一軒のバーが目に付いた。

「そうだ、初めて自分の歌で稼いだ金で祝杯を挙げよう!」
そう思った僕はその2000円を握り締め、ウエスタン調の扉を開けてこう言った。 
「あの〜、2000円しか無いんですけど、これでお酒は飲めますか..?」

今にして思えば赤面するほど恥ずかしいが、そこはそれ、BARなんかに入るのは初めての若造である。
  一瞬キョトンとした表情を見せた後、そのバーテンダーは笑いながらこう言った。「もちろん!」

 あの時の酒のうまさは忘れない。
そして、一杯と言わず、2杯、3杯とバーボンを飲ませてくれた。後から聞いたが「ギター抱えて、面白い奴が来たもんだ。」と、思ったらしい。
 思えば僕がバーテンダーとゆうものに憧れたのはこの瞬間だったのかもしれない。
 それ以来僕はこの店に通いつめることになるのだが、このバーテンダーから僕はいろいろなことを学んだ。ボトルネックの作り方。かっこいいシェーカーの振り方。BARでの立ち居振る舞い方。声をかけていい女とそうでない女の見分け方。本当にうまいバーボンの味....

今でもこんな粋なバーテンダーの居るBARはあるのだろうか?
酒というものは紛れも無く文化であり、それを啓蒙してゆくのはバーテンダーの責任だ。
今の時代の、特に若者達の酒文化の低さには悲しくなるが、それにはバブル時代に懐を膨らますことだけに夢中だったバーテンダー達の怠慢がある。結局は自分で自分の首を絞めることになるのだ。(なんだかグチっぽくなってしまったが..)

 そして今、僕は唄いながらバーテンダーも務めるとゆう、奇妙な仕事についている。どちらも中途半端になりそうな気もするが、当時の僕にとって見たら夢のようなことをしているのかもしれない。
あの時のバーテンダーにはもう会うことは出来ないが、今でもどこかのBARに居るのだろうか?
 あの時の自分に戻ることは出来ないが、今でもあの時のアツさは心にあるだろうか? 
あの時の真っ直ぐな憧れに対して、恥じることは無いだろうか? 
そうだ、僕はあの時、「カッコイイ」男になりたかったんだ..!。

...「あの〜、2000円しか無いんですけど、これでお酒って飲めますか?」って来た人に対して、笑いながら「もちろん!」って言えるような男に...。                am5:00
2004/11/26(Thu) 05:20:47 | 日記

ニューバランス キッズ

こんにちは 、ニートポスト。
ニューバランス キッズ http://www.looking4ranches.com
ニューバランス キッズ(2013/12/20(Fri) 18:27:35)

Re:想い出のバーテンダー

いいですねぇ。そのセリフ!
最近はそんなことを言うお客様も、めっきり居ませんよね。(なんだかさびしいような…)
って、こんなことを書いているけれど、かくいう私も、まだバーテンダーになって若干7年の若輩者ではございますが…。

ともに唄いながら両立を がんばりましょや!
YUMI@私も同じ立場です(2005/08/20(Sat) 10:36:22)
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JOE
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