とあるBARの物語(前編)

この店の重い扉を開けるのは何回目だろう?

この店に入るときはいつも、僕は一呼吸ついてから、扉を開けている。
扉の重さはその重厚な造りのせいばかりでもない。格式(?)や敷居の高さみたいなものが確かにあって、それがまた背筋を正させるような緊張を強いるのだ。

何も酒を飲むのに緊張しながら肩肘張って飲むこと無いだろう。と思う人もいるだろうが、羽目を外したかったら、大衆居酒屋にでも行けばいいだけの話で、僕は本来『BAR』とはそういうところだと思っている。

また、その適度な緊張感こそがBARの醍醐味でもあったりするんだ。
「一期一会」の精神はきっとそんなところから生まれる...。

ギィ〜...
「いらっしゃいませ」
まだ凛とした空気が残る店内、いつものようにマスターが静かに迎えてくれる。
カウンターには誰もいない。後ろのテーブル席にいかつい男が二人座っているだけだ。

「元気だった?今日はギター、もって来てないんだね。」
「ハイ、今日はバイトの給料が入ったんで、一人でお祝いです。」
一言二言、そんな会話をしながら、僕はバーボンのグラスを傾ける。
ようやく、マスターにもこの店の常連として認めてもらえてきたような気がして、なんだかうれしい。

目の前には何百本と酒の並んだバックバー。
タバコの煙とバーボンの甘い匂い。
当たり障り無く流れる音楽と時間がやけに心地いい。

「これだよ、これ」なんて心の中でニヤつきながら、次に何を飲もうかと模索していると、フイに後ろの方から投げかける声が聞こえた。
「兄チャン、いい背中してるねぇ。さっきから見てたけど、なかなかそんな風には呑めないよ。若いのが一人で来たから、なんだコイツって思ってたけど、なかなかどうしてたいしたもんだ。」
なんて後ろの席にいた二人組みの片方が、いきなり話しかけてきた。

「良かったら一緒に飲もうよ、となりいいかい?」
なんて言ったかと思ったら、僕の返事を待たずして、その二人組みは隣に腰掛けてしまった。
『まいったな〜。こういうのは苦手なのに。一人で飲ませてくれよ。』
心の中でぶつぶつと呟きながらマスターの方をちらりと見やると、マスターはニヤニヤ笑っている。
常連さんなのかな?まぁ、悪い人達ではなさそうだけど...。

『それにつけても、今まで「イイ背中してる」なんて言われた事は無かった。(姿勢の悪さは散々言われてきたけど) 自衛隊の勧誘じゃあるまいし。』
なんて思いながらも、初対面の人間から後姿を褒められるというのは、男としてそれほど悪い気はしない。
でも、どうせ若造の僕をからかってんのだろうとたかをくくりながら、僕はなすがままに彼らと杯を重ねていた...

.....つづく
2005/03/07(Mon) 19:26:11 | 日記
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JOE
シンガーソングマスターやってます

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